著作権の消尽-著作物の中古販売、レンタル業、デジタルコンテンツの再販売の許否

著作物の再販売に関する法的問題、いわゆる著作権の消尽に関して以下、説明致します。

目次

1 譲渡権の消尽

2 頒布権の消尽

3 貸与権の消尽

4 デジタル消尽

1 譲渡権の消尽

(1)問題の所在

書店で購入した書籍を著作権者の許諾を得ることなく中古販売することは、著作権者の著作権を侵害することにはならいでしょうか。

著作物(映画の著作物を除く。)には、その原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物を除く。)の譲渡により公衆に提供する権利が付与されます(著作権法26条の2第1項)。

書籍の中古販売は、譲渡権侵害にあたらないかが問題となります。

(2)消尽の許否

著作物の原作品又は複製物が譲渡権者又は譲渡権者から許諾を得た者によって公衆に譲渡等された著作物については、譲渡権が消えてしまい(譲渡権の「消尽」)、以降、当該著作物が転々譲渡されたとしても譲渡権を主張することができません(著作権法26条の2第2項)。

よって、書店等で購入した書籍(ただし、著作者の許諾を得ず複製、譲渡されたものは除きます。違法に複製、譲渡された著作物(海賊版等)については、善意者に係る譲渡権の特例(著作権法113条の2)、みなし侵害(著作権法113条1項2号)の適用が問題となります。)の中古販売が譲渡権侵害となることはありません。

譲渡権につき、消尽の規定が置かれた趣旨は、①著作権者の権利と社会公共の利益との調和を図る必要があること、②一般に著作物は再譲渡できる権利を取得することを前提に取引が行われるものであり、仮に消尽が認められないとすれば著作物の流通が過度に阻害されてしまうこと、③著作権者は、最初の譲渡によって譲渡代金等を取得する機会が保障されており、2度目の譲渡以降において対価を認める必要がないためです。

参考条文(著作権法)

第二十六条の二 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。

 前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。

 前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物

 第六十七条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定又は万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和三十一年法律第八十六号)第五条第一項の規定による許可を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物

 第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物

 前項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物

 国外において、前項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の原作品又は複製物

 

2 頒布権の消尽

(1)問題の所在

ゲームショップで購入したゲームソフトを著作権者の許諾を得ることなく中古販売することは、著作権者の著作権を侵害することにはならいでしょうか。

映画の著作物には、その複製物により頒布する権利が付与されます(著作権法26条1項)。

頒布権における頒布とは、有償・無償にかかわらず映画の著作物の複製物(フィルム等)を「公衆に」譲渡又は貸与すること、あるいは、映画の著作物を公衆に提示することを目的として当該著作物の複製物を譲渡又は貸与する(特定少数に対する譲渡又は貸与を含む。)ことを意味します(著作権法2条1項19号)。

「映画の著作物」は、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物が含まれる(著作権法2条3項)ため、映像表現を伴うゲームソフトも「映画の著作物」として頒布権が付与されると解されます。

ゲームソフトの中古販売は、頒布権侵害にあたらないかが問題となります。

(2)消尽の許否

頒布権は、譲渡権のように、消尽に関する規定が置かれていません。その理由は、頒布権は、「映画の著作物」に関して付与される権利あり、ⓐ映画製作には多額の資本が投下されており、流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があること、ⓑ劇場用映画の取引については、専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと、ⓒ著作権者の意図しない上映行為を規制することが困難であるため、その前段階である複製物の譲渡と貸与を含む頒布行為を規制する必要があること等が挙げられます。

しかし、ゲームソフトのように配給制度を前提とせず、また、公衆に提示することを目的としない「映画の著作物」については、ⓐ~ⓒのような事情を考慮する必要がなく、①著作権者の権利保護と社会公共の利益との調和を図る必要があること、②それ以外の著作物と同様に一般に著作物は再譲渡できる権利を取得することを前提に取引が行われるものであり、仮に消尽が認められないとすれば著作物の流通が過度に阻害されてしまうこと、③著作権者は、最初の譲渡によって譲渡代金等を取得する機会が保障されており、2度目の譲渡以降において対価を認める必要がないこと(譲渡権の消尽が認められている趣旨と合致)から、頒布権のうち「譲渡する権利」は消尽すると解されています(下記参考判例)。

よって、ゲームショップで購入したゲームソフト(ただし、著作者の許諾を得ず複製、譲渡されたもの(海賊版等)は除きます。違法に複製、譲渡された著作物については、善意者に係る譲渡権の特例(著作権法113条の2)の準用、みなし侵害(著作権法113条1項2号)の適用が問題となります。)の中古販売が頒布権侵害となることはありません。

 

〈参考判例-最高平成14年4月25日〉

特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許に係る製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を再譲渡する行為等には及ばないことは、当審の判例とするところであり(最高裁平成七年(オ)第一九八八号同九年七月一日第三小法廷判決・民集五一巻六号二二九九頁)、この理は、著作物又はその複製物を譲渡する場合にも、原則として妥当するというべきである。けだし、(ア) 著作権法による著作権者の権利の保護は、社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないところ、(イ) 一般に、商品を譲渡する場合には、譲渡人は目的物について有する権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していた権利を取得するものであり、著作物又はその複製物が譲渡の目的物として市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が当該目的物につき自由に再譲渡をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがあり、ひいては「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」(著作権法一条)という著作権法の目的にも反することになり、(ウ) 他方、著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって譲渡代金を取得し、又はその利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから、その代償を確保する機会は保障されているものということができ、著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物又はその複製物について、著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。

・・・映画の著作物にのみ頒布権が認められたのは、映画製作には多額の資本が投下されており、流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと、著作権法制定当時、劇場用映画の取引については、前記のとおり専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと、著作権者の意図しない上映行為を規制することが困難であるため、その前段階である複製物の譲渡と貸与を含む頒布行為を規制する必要があったこと等の理由によるものである。このような事情から、同法二六条の規定の解釈として、上記配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については、これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡し、又は貸与する権利(同法二六条、二条一項一九号後段)が消尽しないと解されていたが、同法二六条は、映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて、何らの定めもしていない以上、消尽の有無は、専ら解釈にゆだねられていると解される。

そして、本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については、市場における商品の円滑な流通を確保するなど、上記(ア)、(イ)及び(ウ)の観点から、当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。

3 貸与権の消尽

(1)問題の所在

著作権者の許諾を得ることなく書店等で購入した書籍を利用して貸本業を営む、あるいは、ゲームショップ等で購入したゲームソフトを利用してゲームソフトのレンタル業を営むことは、著作権者の著作権を侵害することにはならいでしょうか。

著作物(映画の著作物を除く。)には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利が付与されます(著作権法26条の3)。

また、映画の著作物には、前述のとおり、頒布権が付与されます。前述のとおり、頒布権には、映画の著作物の複製物を貸与により公衆に提供する権利を含みます。

貸本業やゲームソフトのレンタル業は、貸与権、頒布権のうち「貸与する権利」の侵害にあたらないかが問題となります。

(2)消尽の許否

貸与権には譲渡権のように消尽を定めた規定がありません。これは、貸与権は、一つの複製物を複数の者が利用することによる利益を確保するために認められたものであり、消尽を認めてしまえば、まさにそのような利益確保の機会を著作権者から奪うことになり、貸与権を認めた趣旨に反するからです。頒布権のうち「貸与する権利」も貸与権と同様の趣旨で認められたものであり、消尽を認めてしまえば、このような権利を認めた趣旨に反します。

貸与権、頒布権のうち「貸与する権利」については、こうした理由で、消尽しないと解されています。

よって、著作権者の許諾を得ることなく書店等で購入した書籍を利用して貸本業を営む、あるいは、ゲームショップ等で購入したゲームソフトを利用してゲームソフトのレンタル業を営むことは、貸与権ないし頒布権を侵害することになり、違法であると解されます。

4 デジタル消尽

(1)問題の所在

オンラインで購入し、ダウンロードした電子書籍やゲームのデータ、あるいは、メタバース内で購入した仮想オブジェクト等のデジタルコンテンツを再販売(不特定多数に向けて)することは、著作者の著作権を侵害することにはならいでしょうか。

ダウンロードしたデジタルコンテンツの再販売の形態としては、①デジタルコンテンツをCD-ROM等に複製してこれを販売すること、②インターネットを介し購入者に送信して販売することが考えられます。

条文上、譲渡権及び頒布権のうち「譲渡する権利」は、原作品または複製物という有体物が対象です(著作権法26条、同法26条の2)。条文の文言を形式的に解釈すれば、ダウンロードしたデジタルコンテンツは無体物であるため、譲渡権及び頒布権のうち「譲渡する権利」の対象とはならず、オンラインで購入したとしてもこれらの権利が消尽することはないと解されます。したがって、形式的に見れば、①ダウンロードしたデジタルコンテンツをCD-ROM等に複製して再販売することは、これらの権利侵害となるものと解されます。

また、②ダウンロードしたデジタルコンテンツをインターネットを介して送信して再販売することは、形式的に見れば、公衆送信権(著作権法23条)、複製権(著作権法21条)の侵害となるもの(両権利ともに消尽規定が存在しません。)と解されます。

以上のとおり、形式的に見れば、オンラインで購入し、ダウンロードしたデジタルコンテンツを再販売することは、著作権(譲渡権、頒布権、公衆送信権、複製権)を侵害することになります。

しかし、デジタルコンテンツをCD-ROM等の有体物で購入した場合、購入したCD-ROM等を再販売することは、譲渡権等の消尽により許されます。にもかかわらず、有体物で購入した場合と同等の対価を支払い購入したデジタルコンテンツにつき、有体物を介さないという理由で再販売することが許されないとするのは、デジタルコンテンツの消費者の視点からすると、いささか不満にも思えます。

このような不満を背景に、デジタルコンテンツの販売についても、有体物の販売と同様、著作権の消尽を認めるべきではないかという論争、いわゆる「デジタル消尽」の許否を巡る論争が生じています。

(2)デジタル消尽の許否

日本では、デジタル消尽の紛争が顕在化していませんが、米国・EUでは、デジタル消尽の紛争が顕在化しており、デジタル消尽の許否について司法の判断が示されています。

ニューヨーク州南部地区地方裁判所は、米国著作権法が特定の有体物に限定して消尽を認めていること等を理由に、デジタルコンテンツに関して著作権の消尽を認めませんでした(Capitol Records, LLC v. ReDigi, Inc., 934 F.Supp.2d 640 (S.D.N.Y. 2013))。

欧州司法裁判所は、コンピュータプログラムの再販売について、著作権(頒布権)の消尽を認める一方で(C-128/11-UsedSoft GmbH v Oracle International Corp)、その他の著作物については、デジタルコンテンツの著作権に関して消尽を否定しています(C-263/18-Nederlands Uitgeversverbond and Groep Algemene Uitgevers v Tom Kabinet Internet BV and Others等)。コンピュータプログラムについては、法(コンピュータ指令)で著作権(頒布権)の消尽規定が定められている一方で、その他の著作物に適用される法(情報社会指令)には、無体物に関する消尽規定がないことが前者と後者で結論が異なる主たる理由と考えられます。

アメリカ・EUの判例のように、法令の文言を中心に解釈すれば、前述のとおり、日本においてデジタルコンテンツに関して著作権の消尽が認められる可能性は乏しいものと考えられます。

しかし、日本の判例では、譲渡権に消尽規定があることの反対解釈に立って頒布権の消尽を否定すると解するのは相当ではないと述べて、明文なき著作権の消尽を認めているため(前記参考判例)、デジタル消尽が認められる余地がないと一概にはいえません。実際、デジタルコンテンツについても有体物の著作物と同様に「一物=一者=一権利」が維持されるのであれば、デジタル消尽を認めるべきであるとする見解など(椙山敬士編著「著作権法実践問題」)、デジタル消尽を肯定的にとらえる見解も存在します。

もっとも、デジタル消尽を肯定する判例が未だ存在せず、文言解釈上デジタルコンテンツの再販売は著作権侵害となる可能性が極めて高い行為であるため、これを行うことは相当な法的リスクを伴うものと考えられます(著作権侵害に該当する場合、刑事罰が課せられることがあります(著作権法119条1項))。

 


執筆

福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作