契約書作成の意義
ここでは,契約書作成がなぜ必要か,契約書作成にはどのような意義があるかについて説明いたします。
1 契約の原則
国家による制約を受けることなく自由に契約することができるという原則を「契約自由の原則」といいます。
日本法(民法)においても,この原則が取り入られており,原則として何人も契約を自由に行うことができ(民法521条),かつ,契約の成立には特段の方式が要求されておりません(522条2項)。したがって,契約にあたっては,原則として契約書を作成する必要はありません。
〈参考条文〉
民法521条(契約の締結及び内容の自由)
1 何人も,法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は,法令の制限内において,契約の内容を自由に決定することができる。
民法522条(契約の成立と方式)
1 契約は,契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には,法令に特別の定めがある場合を除き,書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
2 契約書作成の意義
前項のとおり,契約にあたり契約書作成は原則必要ありません。
しかし,契約書の作成が特定の法律効果の発生要件となっている場合があります。この場合,契約当事者が望んでいる法的効果を発生させるためには,契約書を作成する必要があります(下記(1))。
また,契約書には種々の機能とそれに対応したメリットがあります(下記(2))。そのため,多くの取引で契約書が用いられております。契約書を作成しないということは,こうしたメリットを逸し,契約のリスクを高めることになります。
(1)契約書作成が法的効果の発生要件となっている場合
この場合の具体例として下記のような契約が挙げられます。
①保証契約
書面でしか法的効果が発生しません(民法446条2項)
②贈与契約
書面によらなければ解除が可能となります(民法550条)。
③借地借家法上の特約
定期借地権の設定(借地借家法22条),事業用定期借地権等の設定(同23条3項),定期建物賃貸借(同38条1項)の特約は,公正証書による等書面によらなければ法的効果が発生しません。
(2)契約書の機能とメリット
ア 意思確認機能
契約書には,契約書作成前に軽率な契約を行うことを防ぐという機能があります。この機能は,警告機能とも呼ばれることもあります。
企業の取引などの場面で,契約書を用いれば,契約書に署名押印する前に組織的に慎重なチェックを行うことが可能となり,一人の担当者の軽率な口約束で企業にとって不利な契約をしてしまうといった事態を防ぐことが可能となります。
イ 意思明確化の機能
契約書には,当事者の合意内容を明確化する機能があります。
付随的な細かい条件については,口頭では相手に十分に意図や意味が伝わらないことがあります。契約書を作成することでこうした細かい条件についても,相手に明確に伝えることができ,契約内容に取り込むことがより確実となります。
ウ 証明機能
契約書には,契約書作成後に契約の証拠となるという機能があります。
契約当事者や契約の承継者,後任者が契約内容を確認するために契約書を参照することができます。行政庁などの第三者に契約成立を示すこともできます。また,契約について後日紛争となり,裁判が起こされた場合,契約書は裁判上の重要な証拠となります。
執筆
福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作