著作権侵害における損害立証のための制度

著作権侵害による損害賠償請求訴訟においては,損害立証のために下記のような,手段をとることができます。

(1)書類提出命令(著作権法114条の3)

著作権侵害による逸失利益については,推定等の規定が定められているものの(関連記事:著作権侵害における損害の算定等),販売数量や侵害者の利益率等逸失利益の算定の基礎となる資料については,侵害者の手元にあることが多く,著作権者がこれらの資料を入手することは困難です。

法は,こうした不都合の解消のため,書類提出命令の制度を設けています。書類提出命令によれば,逸失利益算定の基礎となる資料の所持者は,「正当な理由」がない限り,その提出を拒むことはできません。正当な理由なく資料の提出を拒んだ場合,当該資料の記載に関する主張を真実と認めることができ,当該資料の記載に関し具体的な主張をすること及び当該資料により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは,当該主張を真実と認めることができます。

(2)計算鑑定の申立て(著作権法114条の4)

損害額算定のために提出された会計帳簿や伝票類などの調査分析が困難な場合や損害額算定が複雑になる場合,計算鑑定を申立てることができます。計算鑑定にあたり,当事者は,損害計算のため必要事項を説明する義務がありますが,説明義務違反には,制裁規定はありません。しかし,説明義務違反があった場合,裁判官は,そのことを参酌して心証形成することになるため,説明義務違反が違反者にとってプラスにはたらくことは想定し難いものといえます。

 


執筆

福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作