著作権侵害における損害について
著作権(著作財産権)が侵害された場合,どのような損害が損害賠償の対象となるでしょう。ここでは,著作権侵害に基づく損害賠償の対象となり得る損害について説明いたします。
1 積極損害
著作権侵害の結果,被侵害者が財産を失うなどの損害(積極損害)を被った場合,被侵害者は,侵害者に対し,当該損害につき損害賠償請求を行うことができます。
著作権は,情報(著作物)という形のない財産を対象にするため,著作権侵害によってただちに財産を失うという事態は通常観念できませんが,侵害の調査費用や弁護士費用など,侵害と因果関係が認められるものについては,積極損害として考えることができます。後述の消極損害と異なり,積極損害については,法による推定規定等がないため,損害賠償請求を行う者が主張・立証する必要があります。
弁護士費用については,損害額の1割程度と認定されることが多いものの,損害の認容額が低額である場合,1割以上高額の認定がされることもあります(東京地判平成16年5月31日:弁護士費用以外の損害の認容額=82万5000円,弁護士費用に関する損害の認容額=10万円)。
2 消極損害
著作権侵害がなければ得ることができたはずの逸失利益(消極損害)がある場合,被侵害者は,侵害者に対し,当該損害につき損害賠償請求を行うことができます。
消極損害は,自分の著作物の販売数量が減少した,あるいは,侵害品との競合により自分の著作物を値引きせざるを得ない状況となったことなどから生じます。しかし,販売数量減少などといった事情と著作権侵害との因果関係を立証することは通常困難です。消極損害について,立証を容易にするため,損害額の推定規定等が法で定められています(著作権法114条)。
3 精神的損害(慰謝料)
著作権(著作財産権)は,あくまで財産権です。財産権侵害による精神的苦痛は,通常財産権侵害による損害賠償請求により回復することができると考えられているため,著作権侵害について慰謝料を請求できないのが原則です。ただし,著作権侵害行為の悪質性等諸般の事情に鑑みて,慰謝料請求が例外的に認容されることもあります(下記判例等)。
著作権侵害とは別に,著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権など著作者が自己の著作物につき有している人格的利益を保護する権利)侵害により慰謝料請求が認められる余地もあります。
〈参考判例:東京高判昭和60年10月17日 藤田嗣治絵画複製事件〉
・・・本件に顕われた諸般の事情,特に被控訴人は,控訴人の再三の懇請に応ぜず,【B】作品の本件書籍への掲載を明確に拒否していたのに拘らず,本件絵画の複製物が本件書籍へ掲載されたこと,その結果,【B】は世界的な評価を受けるべき画家であつて日本の絵画の流れの中で位置づけることは許されないとする被控訴人の感情が著しく傷つけられたこと(この点は後に認定する。),本件訴訟の提起及び維持のため渡日し法廷に出廷するなど精神的負担が大きいと推測されることに鑑みると,控訴人の本件著作権侵害により被控訴人が被つた精神的苦痛を慰藉するに相当する額は金八〇万円と認めるべきである。
執筆
福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作