著作権侵害における損害額の推定等

目次

1 損害額の推定等(112条)

(1)譲渡数量による損害額の算定(1項)

(2)侵害者利益額による推定(2項)

(3)使用料相当額の請求(3項)

2 相当な侵害額の認定(114条の5)

3 動画共有サイトやファイル共有ソフトによる著作権侵害行為について

1 損害額の推定等(114条)

著作権侵害がなければ得ることができたはずの逸失利益(消極損害)がある場合,被侵害者は,侵害者に対し,当該損害につき損害賠償請求を行うことができます。

消極損害は,通常,自分の著作物の販売数量が減少した,あるいは,侵害品との競合により自分の著作物を値引きせざるを得ない状況となったことなどから生じます。しかし,販売数量減少などといった事情と著作権侵害との因果関係を立証することは通常困難です。著作権法114条では,消極損害の立証の困難性を軽減するため推定規定等を定めています。

推定規定等の解釈,適用次第では,損害額が過大にも過少にも算出されます。請求を行う側にせよ,請求を受ける側にせよ,著作権侵害による損害賠償請求を検討する場合,推定規定等の正しい理解が重要です。

以下,著作権法114条で定められている推定規定等について説明いたします。

〈参考条文〉
著作権法114条
1 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
4 以下略

(1)譲渡数量による損害額の算定(1項)

ア 計算式

下記計算式で算出された金額を逸失利益とすることができます。

①逸失利益=侵害品の譲渡数量×侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益

ないし

②逸失利益=侵害行為を組成する公衆送信が公衆により受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物の数量(ダウンロード数など)×侵害行為がなければ受信することができた複製物の単位数量当たりの利益

ただし,侵害部分が全体のうち一部の場合,寄与割合を乗じられる場合があります(東京地判平成6年4月25日は,書籍577頁のうち侵害部分はうち2頁だとして,侵害品全体の純利益に寄与割合2/577を乗じました。)。

イ 適用上の留意点

(ア)単位数量あたりの利益

ここでいう「利益」は,売上額から原材料費や仕入価,変動経費を差し引いた(固定費は差し引きません。)いわゆる「限界利益」と解するのが通説・判例です。

(イ)権利者の販売能力等

著作権法114条1項は,著作権者の有する設備や技術など販売能力の限度で適用されるにすぎません。また,「販売することができた物」とは,侵害者の制作した物と代替性のある物でなければならないとされており,著作権者が制作した物が侵害品と利用目的,態様を異にし,販売ルートに大きな違いがあるといった場合,著作権法114条1項の適用が否定される可能性があります(東京高判平成16年6月29日)。

(ウ)販売ないし配信等をすることができない事情(1項但書)

法規制により製品を著作権者が販売できなくなった場合等,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量の被侵害者製品を原告が販売できないとする事情がある場合,当該事情に応じて損害額が減じられることになります。

(2)侵害者利益額による推定(2項)

ア 計算式

下記計算式で算出された金額を損害額として推定することができます。

逸失利益=侵害者の譲渡数量×侵害品の単位数量当たりの利益額

1項と同様,侵害部分が全体のうち一部の場合,寄与割合を乗じられる場合があります。

イ 適用上の留意点

(ア)推定規定であること

2項は推定規定であるため,ここで算出された損害額は反証によって覆滅することができます。

(イ)利益

解釈が分かれるところですが,ここでいう「利益」は,売上額から原材料費や仕入価,変動経費を差し引いた(固定費は差し引きません。)いわゆる「限界利益」と解するのが多数説です。

(3)使用料相当額の請求(3項)

ア 計算式

下記計算式で算出された金額を損害額として,その賠償を請求することができます。

使用料相当額=侵害者の譲渡数量×権利者が単位数量当たりに受けるべき金銭の額に相当する額

イ 適用上の留意点

(ア)譲渡数量

現実に譲渡した数量に限らず,譲渡に供していない複製物の個数も侵害数量の基礎とすることができると解されております。

(イ)単位数量当たり受けるべき金銭の額

業界内の一般的な使用料,著作権者の他の使用許諾契約等,諸般の事情を考慮して,個別具体的に算定されます。

2 相当な損害額の認定(114条の5)

以上の推定規定等によっても損害額の算定が困難である場合,裁判所は,口頭弁論の前主氏及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額を認定することができます(著作権法114条の5)。

〈参考条文〉

著作権法114条の5
著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において,損害が生じたことが認められる場合において,損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは,裁判所は,相当な損害額を認定することができる。

3 動画共有サイトやファイル共有ソフトによる著作権侵害行為について

動画共有サイトやP2P形式のファイル共有ソフト(BitTorrent,Share等)による漫画やアニメなどの著作物のアップロードは著作物の拡散が広範囲にわたることがあり,著作権者から多額の損害賠償請求を受けることがあります。

このような場合,著作権者が主張する利益額が過大である(変動経費等を差し引く前の売上額を利益額として主張している等),譲渡数量が過大である(ダウンロード数ではなく視聴回数を譲渡数量と主張している等),著作権者が拡散された数量の著作物を販売ないし配信等をすることができないなど,上記推定規定等に基づいて著作権者に対し反論をする余地がある場合がございます(著作権侵害がそもそも存在しないと考える余地がある可能性もあります。)。

上記のようなアップロード行為によって,著作権者より多額の請求を受けている場合,今後の対応を含めて弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。


執筆

福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作