破産しても処分されない財産-自由財産とは
1 自由財産とは
破産手続では,破産者の資産は,原則として換価され,破産者の負債の弁済に充てられます。しかし,個人破産の場合,破産者の資産が全て負債の弁済に充てられてしまえば,破産者の生活が成り立たちません。
そこで,破産法は,破産者の生活維持のため,一定の財産を破産者の手元に残すことができる財産として認めています。破産者の手元に残すことができる財産を「自由財産」と呼びます。
2 自由財産の対象
自由財産となる財産は
①破産手続開始後に破産者が取得した財産(新得財産。破産法34条1項)
②99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
③差押禁止財産(破産法34条3項2号)
④破産管財人が破産財団から放棄した財産(破産法78条2項12号)
⑤自由財産の拡張が認められた財産(34条4項)
です。
①~③は,法律上当然に自由財産となるため,「本来的自由財産」と呼ばれることがあります。
(1)本来的自由財産
ア 破産手続開始後に破産者が取得した財産(新得財産)
破産手続では,原則として,破産手続開始時に破産者が有する財産は「破産財団」とされ,負債の弁済等に充てられます(破産法34条1項)。破産手続開始時点で破産財団を固定するという法原則は,「固定主義」と呼びます。
「固定主義」の反映として,破産手続開始後に破産者が取得した財産は,「自由財産」になります。したがって,下記のような財産は,「自由財産」とされ,破産者の手元に残すことができます。
①破産手続開始後に破産者が労働の対価として受け取った給与
②破産手続開始後,親族が死亡して得た相続財産
ただし,破産手続開始後に発生した債権であっても,発生原因が破産手続開始前にある場合には,自由財産とはなりません(破産法34条2項)。
イ 99万円以下の現金
破産法34条3項1号は,「民事執行法第134条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭」は,「破産財団に属しない」と規定しています。
「民事執行法第134条第3号に規定する額」の金銭とは,「標準的な世帯の二月間の必要生活費を勘案して政令で定める額の金銭」(民事執行法第134条第3号)のことを意味します。「政令で定める額の金銭」とは,現金66万円のことを意味します(民事執行施行令1条)。
すなわち,99万円(=66万円×3/2)以下の現金は,「自由財産」とされ,破産者の手元に残すことができます。
ウ 差押禁止財産
差押禁止財産は,「自由財産」とされ,破産者の手元に残すことができます(破産法34条3項2号)。
差押禁止財産の範囲は,原則として民事執行法に規定されています(民事執行法131条,152条)。その他特別法により差押禁止財産と規定された財産も自由財産とされます。
(ア)民事執行法上の差押禁止財産
a 民事執行法131条1号,2号,4号~14号に規定されている差押禁止財産
①債務者等の生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用具,畳及び建具(1号)
→冷蔵庫,洗濯機,テレビ,食器,ベッド,日常着用する衣類等が該当します。
②債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料(2号)
③主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具,肥料,労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物(4号)
④主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具,えさ及び稚魚その他これに類する水産物(5号)
⑤技術者,職人,労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(③,④に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)(6号))
⑥実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの(7号)
⑦仏像,位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物(8号)
⑧債務者に必要な系譜,日記,商業帳簿及びこれらに類する書類(9号)
⑨債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物(10号)
⑩債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具(11号)
⑪発明又は著作に係る物で,まだ公表していないもの(12号)
⑫債務者等に必要な義手,義足その他の身体の補足に供する物(13号)
⑬建物その他の工作物について,災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具,避難器具その他の備品(14号)
b 民事執行法152条1項,2項に規定されている差押禁止財産
①債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権のうちその支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)
→民間の年金保険などが該当します。
②給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権のうちその支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)
→給料のうち4分の1に相当する部分については,差押禁止財産とはなりませんが,破産手続開始前に取得した給料は,現金ないし預貯金として扱われ,破産手続開始後に取得した給料は本来的自由財産(新得財産)として扱われるため,原則として給料が破産財団として扱われることはありません。
③退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分
→退職金は,労働の対価の後払いと一般的に理解されているため,破産手続開始後に取得する予定の退職金であっても,破産手続開始前の労働の対価に相当する部分の退職金(4分の1の差押可能部分)は,新得財産として扱われず,自由財産となりません。
なお,退職予定が当面先になる場合,懲戒解雇等のために退職金が受給できなくなるリスクもあるため,破産手続開始時点での支給見込額の8分の1相当額を自由財産の対象外とするとの運営が全国的に行われています(会津地区を含む福島地方裁判所管内も同様の運営を行っています。)。
エ 特別法上の差押禁止財産
①小規模企業共済(小規模企業共済法15条)
②中小企業退職金共済(中小企業退職金共済法20条)
③生活保護受給権(生活保護法58条)
④失業等給付受給権(雇用保険法11条)
⑤労働者の補償請求権(労働基準法83条2項)
⑥交通事故の被害者の直接請求権(自動車損害賠償保障法16条1項,18条)
⑦健康保険法による各種保険給付(健康保険法52条,61条)
等々
(2)破産管財人が破産財団から放棄した財産
「破産財団」は,破産手続開始後に裁判所から選任された破産管財人の管理下に置かれます。破産管財人は,「破産財団」のうち換価してもコスト倒れになってしまう財産や担保権が付いており担保割れになってしまう財産については,費用対効果の観点から,「破産財団」から放棄することがあります(破産法78条2項12号)。破産管財人が「破産財団」から放棄した財産は,「自由財産」とされ,破産者の手元に残すことができます。
(3)自由財産の拡張が認められた財産
破産者の手元に残しただけでは,破産者の最低限度の生活を維持できない場合も往々にしてあります。そこで,破産法は,裁判所が自由財産の範囲を拡張することを認めています(破産法34条4項)。
すなわち,裁判所は,本来的自由財産ではない財産であっても,破産手続開始決定確定から原則として1か月以内に,破産者の申立てまたは裁判所の職権により,破産者の生活状況や破産手続開始時点で破産者が有していた本来的自由財産の種類や額,破産者の収入を得る見込み等を勘案して自由財産の拡張を行うことができます。
執筆
福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作