労働者による労働契約の解約―「辞職」について

1 「辞職」の意義

「辞職」とは,法的に見れば,労働者側からの労働契約の一方的解約を意味します。

「解雇」(使用者による労働契約の一方的解約)と異なり,労働基準法や労働契約法等による修正はほとんどなく,基本的には,民法がそのまま適用されます。

2 「辞職」が認められるための要件

(1)期限の定めのある労働契約の場合

労働者も期限の定めに拘束され,期限内に辞職する場合は,「やむを得ない事由」がある場合にのみ,辞職が認められます(民法628条)。「やむを得ない事由」を故意・過失により生じさせた当事者は,他方当事者に対し,解約のために生じた損害につき,賠償責任を負います。

疾病で就労不能に陥ったこと,給与不払いなど使用者に重大な契約違反があったこと,使用者の事業破綻などが「やむを得ない事由」にあたり得ます。

期間の初日から1年を経過した日以降においては,労働者は,いつでも辞職することができます(労働基準法附則137条。ただし,この条文は,専門的な知識,技術を有する労働者および60歳以上の労働者との有期契約には適用されません。)。

(2)期限の定めのない労働契約の場合

ア 原則

労働者は,2週間前に予告すればいつでも自由に辞職できます(民法627条1項)。労働者の意思表示が使用者に到達し,2週間経過した後に労働契約は終了することになります。

イ 就労規則や労働契約の定めにより2週間以上の予告期間が設定されている場合

2週間以上の予告期間を定めた就労規則等の有効性が問題となります。

民法627条1項を「強行法規」(当事者の意思により変更が許されない法規)と考え,2週間以上の予告期間の定めは無効であると解する学説,判例が有力です(高野メリヤス事件・東京地判昭和51.10.29等)。

一方で,民法627条1項を「任意規定」(当事者の意思により変更が許される法規)と考え,2週間以上の予告期間の定めも原則として有効であるものの,極端に長い予告期間の定めは公序良俗違反として無効であるとの見解もあります。

解釈が分かれる点でもあるので,就労規則等に従えば著しい不利益を被るなど特段の事情がない限り就労規則等の定めに従い辞職を行った方が無難といえます。

 


執筆

福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作