法人破産と個人破産の違い

法人が破産する場合と個人が破産する場合とで制度や手続の面でどのような違いがあるかについて説明いたします。

1 免責制度の有無

法人破産の場合,破産手続の終了によって法人は消滅します。それと同時に,法人が負っていた債務も消滅します。

個人の場合,破産手続が終了したからといって,個人が消滅するわけではないので,破産手続終了後も債務は残ります。残った債務については,「免責」の許可を得て債務の支払義務の免除をさせる必要があります。

法人破産の場合には,「免責」の制度がないため,免責不許可事由が問題となることもありません。

2 自由財産の有無

個人破産の場合には,破産手続開始後に労働で得た収入や相続で得た財産等は個人の手元に残ります。また,破産手続開始前に有していた財産であっても,破産者の生活維持のめたに,99万円以下の現金や差押禁止財産等,一定の財産については,個人の手元に残すことができます。破産者の手元に残る財産のことを「自由財産」といいます。

法人破産の場合,法人は破産手続により消滅し,法人に財産を残しておく合理的理由はないため,極めて稀な例外を除き,「自由財産」が認められることはありません。

3 受任通知送付の要否

個人破産においては,多くの場合,代理人となった弁護士は,受任直後に各債権者に対し,受任通知を送付します。弁護士から受任通知を受領すると,貸金業者は,原則債務者に直接請求することができなくなり(下記参考条文),債務者は,生活は生活の平穏を取り戻すことができます。また,受任通知は通常債権調査も兼ねており,受任通知の送付により,より正確な債権額を疎明することが可能となります。

法人破産の場合,貸金業法に定めるような取立規制がなく,受任通知発送によりかえって強引な債権回収を誘発することになりかねません。また,利害関係者も多岐に渡ることもあり,受任通知発送により,問い合わせや訪問が殺到する場合もがあります。

もっとも,法人破産の場合であっても,①預金口座に入金された売掛金等につき相殺禁止効を発生させる,②取引先が商品等を納入することを防止する,③長期間営業をしていない法人である程度の債権調査が必要であるといった場合には,受任通知を発送することは有用です。法人破産においては,受任通知発送の要否は,ケースバイケースであるといえます。

〈参考条文-貸金業法〉

(取立て行為の規制)

第二十一条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。

九 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。


執筆

福島県弁護士会(会津若松支部)所属
葵綜合法律事務所 弁護士 新田 周作